士業に顧問に入ってもらうことの重要性とは?役割、費用相場、ITツールとの付き合い方を徹底解説
はじめに:なぜビジネスに「顧問」が必要なのか
個人事業主として独立したり、法人を設立したりすると、必ず耳にするのが「顧問契約」という言葉です。
「毎月固定費を払ってまで、士業と契約する必要があるのか?」 「スポット(単発)での依頼ではだめなのか?」 創業間もない経営者の方から、このような相談を受けることは少なくありません。
結論から申し上げますと、事業を安定的かつ長期的に成長させるためには、適切なタイミングで適切な士業をパートナーに迎えることが不可欠です。顧問契約とは、単なる事務代行の契約ではなく、経営のリスクヘッジであり、アクセルを踏むための「安心材料」を買う行為だからです。
しかし、一言に「士業」といっても、誰に何を頼めばよいのか、その線引きは意外と曖昧です。 本記事では事業フェーズごとに優先すべき士業(税理士、社労士、弁護士)の役割と費用相場、そして近年進化するITツールとの使い分けについて解説します。
※2025年版中小企業白書・小規模企業白書の概要より https://www.meti.go.jp/press/2025/04/20250425001/20250425001-1r.pdf
優先度【高】:税理士 ~会社のお金を守る最初のパートナー~
税理士の主な役割
ビジネスを始めたその日から、避けて通れないのが「税金」と「会計」です。 税理士の最も基本的な業務は、日々の記帳代行やチェック、そして年に一度の確定申告(法人の場合は決算申告)です。日本において納税は国民の義務であり、特に法人の決算申告書は非常に複雑で、専門知識がないまま完璧に作成するのは困難を極めます。
しかし、顧問税理士の真価は「事務処理」だけではありません。
- ・節税対策の提案
- ・資金調達(銀行融資)の際のアドバイスや事業計画書の確認
- ・税務調査が入った際の立ち会い
これらは、ネットで調べた知識だけでは対応しきれない領域です。
費用相場と契約のタイミング
個人の場合や小規模な法人であれば、月額2万円~3万円程度が相場となります。もちろん、売上規模が大きくなったり、訪問回数を増やしたりすれば顧問料は上がります。
事業を開始した直後、あるいは売上が立ち始めた段階で、最も優先的に契約すべき士業と言えます。
※令和5年分申告所得税標本調査より https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/shinkokuhyohon2023/pdf/R05.pdf
優先度【やや高】:社会保険労務士(社労士) ~「人」に関するトラブルを防ぎ、活用を促す~
社労士の主な役割
事業が軌道に乗り、「自分以外の誰かを雇う」ことになった瞬間に必要性が高まるのが社会保険労務士です。 社労士は、雇用保険や社会保険の手続き、給与計算、就業規則の作成など「労務」のスペシャリストです。
近年、未払い残業代の請求や不当解雇の訴えなど、労使間のトラブルは増加傾向にあります。一度トラブルが起きると、金銭的な損失だけでなく、企業イメージのダウンや他の従業員のモチベーション低下にもつながります。こうしたリスクを未然に防ぐためのアドバイスをもらえるのが、顧問社労士の大きなメリットです。
また、我々のような診断士の視点から特に強調したいのが、「助成金・補助金」への対応力です。特に厚生労働省管轄の助成金(キャリアアップ助成金など)は、要件が複雑で申請期限も厳格ですが、社労士がいれば、自社が受給できる可能性のある助成金をタイムリーに提案してもらえる可能性があります。 ※助成金は要件を満たせば受給できる可能性が高いものですが、申請には厳密な労務管理が求められます。
費用相場と契約のタイミング
従業員数にもよりますが、顧問料は月額2万円~3万円程度からスタートすることが一般的です。給与計算を依頼する場合は、人数×単価で加算されるケースが多いでしょう。
5名以上の従業員を雇用するタイミング、あるいは助成金の活用を本格的に考え始めた段階での契約をおすすめします。
優先度【中】:弁護士 ~事業を守る「最後の砦」と攻めの法務~
弁護士の主な役割
事業がある程度順調に進み、取引先が増えたり、新規事業を展開したりするフェーズで重要になるのが弁護士です。 「弁護士は裁判になってから頼むもの」と思っている方もいますが、それは誤解です。顧問弁護士の最大の役割は「予防法務」にあります。
- ・取引先との契約書リーガルチェック(不利な条項がないか確認)
- ・売掛金の未回収トラブルへの対応
- ・クレーム対応の窓口
- ・新規ビジネスの適法性チェック
これらを日常的に相談できることで、経営者は安心して事業拡大に集中できます。AIの普及により、定型的な契約書は自動作成できるようになりましたが、個別の事情に合わせた修正や、万が一の際の交渉力は、やはり人間にしかできません。
費用相場と契約のタイミング
顧問料の相場は月額3万円~5万円程度からです。 取引先との契約件数が増えてきた時期や、知的財産権などが絡むビジネスモデルの場合、あるいは従業員数が数十名規模になり組織的なリスク管理が必要になった段階での検討が良いでしょう。
中小企業の弁護士ニーズ全国調査報告書 (調査結果編)より https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/jfba_info/publication/data/chusho_chousakekka.pdf
ITツールと専門家、どう使い分けるべきか?
「作業」はIT、「判断」は専門家
現在は、クラウド会計ソフト(freeeやマネーフォワードなど)や、給与計算ソフト、AI契約書レビューなどのITツール(SaaS)が非常に充実しています。 「ソフトを使えば、士業はいらないのでは?」 そう考える経営者もいますが、それは半分正解で半分間違いです。
ITツールはあくまで「作業」を効率化するものです。入力の手間を減らしたり、計算ミスをなくしたりすることには長けています。 しかし、「この経費はどう処理すべきか?」「この従業員とのトラブルはどう解決すべきか?」「この契約条項は自社にとってリスクではないか?」といった『判断』や『経営判断に直結するアドバイス』は、AIやソフトではまだ完全には代替できません。
ハイブリッドな活用が最強のコストパフォーマンス
賢い経営者は、ITツールを導入して社内の事務作業を効率化しつつ、そこから浮いたリソースやコストで士業と顧問契約を結びます。 日々の入力は自社で行い、月次のチェックや重要な判断、節税や助成金の提案といった「付加価値の高い業務」を士業に依頼するのです。 これにより、コストを抑えつつ、専門家の知見を最大限に活用する体制が構築できます。
まとめ
事業の成長ステージに合わせて、必要な士業の優先順位は変わります。
- 税理士:義務である納税と決算のため(最優先)
- 社労士:人を雇い、組織を作り、助成金を活用するため
- 弁護士:契約リスクを回避し、攻めの経営を行うため
ITツールで効率化できる部分は積極的にデジタル化しつつ、経営の羅針盤となる「人(専門家)」の知恵を借りる。このバランス感覚こそが、変化の激しい現代のビジネスを生き抜く鍵となります。 顧問契約は「コスト」ではなく、事業を守り育てるための「投資」です。
自社の現状を見つめ直し、今どの専門家のサポートが必要か、一度検討してみてはいかがでしょうか。