補助金・助成金の活用において、多くの事業者が「採択」と「受給」にのみ目を向けがちですが、真に理解しておくべきは「事故」が起きた際の法的・財務的リスクです。
特に多額の税金が投入される「事業再構築補助金」においては、事業の失敗や事故が単なる倒産では済まない深刻な事態を招く可能性があります。
補助金事業における「事故」と返還義務の真実:事業再構築補助金の裏側に潜むリスク
2021年に開始された事業再構築補助金は、新型コロナウイルスの影響を受けた中小企業が新分野展開や業種転換を図るための強力な支援策でした。この制度により、多くの企業が起死回生の一手を打つことが可能となりましたが、一方で特定の業種への投資が集中する現象も見られました。
特に「サウナ」「シミュレーションゴルフ」「セルフエステ」「グランピング」といった業種は、市場の飽和や過剰投資が懸念され、中小企業庁からも審査の厳格化や調整が入るほど注目されました。これらの業種は参入障壁が比較的低い反面、運営における安全管理や継続的な集客が極めて重要となります。
重大な過失と自己破産の壁:非免責債権という落とし穴
万が一、補助金を活用して運営している施設(例えばサウナ店など)で重大な事故が発生した場合、経営者は想像を絶する法的責任を負う可能性があります。昨今、東京都内のサウナ施設で発生したような重大な事故が、もし補助金事業として実施されていた場合、その後のマネーフローは非常に過酷なものとなります。
結論から申し上げますと、重大な過失による事故や不正が絡む場合、法人および個人が自己破産を選択したとしても、補助金の返還義務や損害賠償責任が「非免責債権」となる可能性があります。
破産法では、破産者が「故意または重大な過失により加えた人の生命または身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権」などは、免責の対象外と定められています。
つまり、自己破産をしてもその負債は一生つきまとい、逃れることはできません。補助金は国民の貴重な税金が原資であるため、その適正な執行には極めて厳しい法的規律が適用されるのです。
銀行が補助金対象物件への「根抵当権」を設定できない理由
補助金を活用して建物を建設する場合、資金調達の面でも特有の制約が生じます。銀行は補助金対象の建物に対して「根抵当権」を設定することができません。
根抵当権とは、一定の範囲内で何度でもお金の貸し借りができる権利ですが、補助金事業においてはこれが馴染みません。
最大の理由は、補助金の返還事由が発生した際、国の債権回収が銀行の抵当権よりも優先されるリスクがあるためです。「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(補助金適正化法)」に基づき、返還命令が出された場合、国は強力な徴収権限を持ちます。
銀行側は、万が一の際に担保価値が実質的に国に吸い上げられてしまう可能性がある物件に、極度額を定める根抵当権を設定することができません。
また、公的資金である補助金で建てた資産を、民間の自由な借り入れの担保として何度も活用することは、制度の趣旨からも逸脱すると見なされます。
代位弁済から日本政策金融公庫へ:逃げ場のない回収スキーム
事業が破綻し、補助金の返還も困難になった場合、お金の流れはどのようになるのでしょうか。補助金の返還請求は他の一切の債務に優先して行われます。
次に銀行の融資についてですが、事業者が返済不能に陥った場合、銀行は「代位弁済」という手続きをとります。これは、信用保証協会が事業者に代わって銀行へ融資残高を立て替え払いする仕組みです。しかし、これで事業者の借金がなくなるわけではありません。債権が銀行から信用保証協会へと移るだけです。
さらに、この信用保証協会のバックアップ(再保険)を行っているのは、日本政策金融公庫です。最終的に、信用保証協会が回収不能と判断した債権の多くは、公庫へと行き着きます。
つまり、最終的な取り立ての主体は「国」に関連する機関となります。民間の金融機関であれば交渉の余地があるかもしれませんが、公的機関による債権回収は非常に厳格です。
連帯保証制度の変遷と国民の税金という重み
事業再構築補助金の初期の公募においては、一定の条件で個人の連帯保証を求めるケースが存在しました。
しかし、コロナ禍という異常事態において、新たな挑戦を促すために連帯保証が足かせになるという議論がなされ、現在ではこの制度は原則として廃止されています。
これは経営者にとって一見、リスクが軽減されたように見えますが、視点を変えれば「返還されなかった補助金は、最終的にすべて我々国民の税金で補填される」ということを意味します。この事実こそが、審査が年々厳格化し、事後の「事故報告」や「実績報告」において隙が許されない理由です。
補助金は「もらえるお金」ではなく、国民から「事業の成功を条件に託されたお金」です。
万が一の事故が発生した際、その責任は法人の消滅とともに消えるものではありません。経営者は、補助金という劇薬を扱う重みを今一度認識し、盤石な安全管理と事業継続計画を策定する必要があります。