新事業進出補助金などで注目される「リース会社との共同申請」。そのメリットと看過できないリスクとは?
はじめに:設備投資の強い味方「リース併用」の潮流
近年、「新事業進出補助金」や「中小企業省力化投資補助金(一般型)」、「成長加速化補助金」など、大型の設備投資を伴う補助金において、「リース会社との共同申請」というスキームが認められるケースが増えています。通常、補助金は設備を「購入」し、支払いが完了した後に国から一部がキャッシュバックされる仕組みです。
しかし、数千万円単位の機械装置を導入する場合、一時的とはいえ全額をキャッシュで用意するのは、中小企業にとって資金繰り上の大きな負担となります。
そこで注目されるのが、初期費用を抑えられる「リース契約」を活用した申請です。一見すると、資金調達のハードルを下げる魔法の杖のように見えますが、実は実務上、「よほど信用力の高い会社でないと推奨できない」という側面があります。
本記事では、公募要領の規定を紐解きながら、リース共同申請の仕組みと、申請前に知っておくべき「隠れたリスク」について解説します。
リース会社との共同申請とはどのような仕組みか?
まずは基本的な仕組みを整理しましょう。 通常、事業者が単独で申請する場合、補助金は事業者(申請者)の銀行口座に振り込まれます。一方、リース会社と共同申請を行う場合、補助金を受け取るのは「事業者」ではなく「リース会社」となります。
制度上、リース会社は受け取った補助金相当分を、毎月のリース料から減額して事業者に還元することが義務付けられています。
つまり、事業者は「補助金を差し引いた割安なリース料」を支払うことで、実質的に補助金の恩恵を受けることができるのです。初期投資のキャッシュアウトを抑えつつ、最新設備を導入できる点は、資金繰りを重視する経営者にとって大きなメリットと言えるでしょう。
結論:信用力が盤石でない限り、共同申請はおすすめできない
メリットが明確であるにもかかわらず、多くの専門家が「リース共同申請は慎重に」とアドバイスするのには理由があります。結論から申し上げますと、銀行融資がスムーズに降りるような「信用力の高い会社」以外は、このスキームの利用は避けたほうが無難です。
その最大の理由は、「リース会社の審査」と「補助金の審査」という、性質の異なる2つのハードルを同時に、かつ長期間にわたってクリアし続けなければならない点にあります。
1. タイムラグによる「再審査」のリスク
補助金の申請から採択、そして実際に交付決定が降りるまでには、数ヶ月の時間を要します。 申請準備段階でリース会社に相談し、「仮審査」のような形でOKをもらっていたとしても、いざ採択された数ヶ月後に本契約を結ぼうとした際、直近の決算内容や経済情勢の変化によって「再審査」が必要になるケースが多々あります。
ここでリース会社の審査が否決されてしまうと、どうなるでしょうか。
公募要領には、採択後の計画変更について厳しい制限があります。多くの補助金において、申請時のスキーム(リース利用)から自己資金購入への変更や、リース会社の変更は認められない、あるいは極めて困難であるケースがほとんどです。 最悪の場合、せっかく補助金に採択されたにもかかわらず、リース契約が結べないために「辞退」せざるを得ないという事態に陥ります。
2. 申請時点での「見込み」の甘さ
申請時には、リース会社から「リース引受予定通知書」やそれに類する書類の発行を求められることが一般的です。しかし、この段階ではリース会社側も簡易的なチェックに留めることがあります。なぜなら、補助金に採択されるかどうかわからない案件に対して、詳細な与信調査コストをかけるメリットが薄いからです。
「申請時にハンコをもらえたから大丈夫」と思っていても、採択後に正式な稟議にかけたところ、「やはりリスクが高いのでお断りします」となる可能性はゼロではありません。
リース会社が恐れる「連帯責任」のリスク
なぜリース会社はこれほど審査に慎重になるのでしょうか。それは、補助金制度特有の「返還リスク」をリース会社が負わされる仕組みになっているからです。
賃上げ未達や目的外使用のツケはリース会社へ
例えば、「新事業進出補助金」の公募要領には、以下のような規定があります。共同申請をした中小企業等が、交付決定取消や補助対象要件の未達成により、補助金返還の対象となった場合、リース会社に交付されている補助金については、リース会社からの返還を求めます。これは非常に重い規定です。
もし、補助事業を行う中小企業が、事業計画で約束した「賃上げ要件」を達成できなかったり、導入した設備を「目的外(公募要領で禁止されている転用など)」に使用したりした場合、国は補助金の返還を命じます。
通常であれば事業者が返還すれば済みますが、共同申請の場合、補助金を直接受け取っているのはリース会社であるため、国はリース会社に対して返還請求を行います。
リース会社からすれば、自社の落ち度ではない理由(中小企業の経営努力不足やルール違反)によって、数千万円の返還義務を負わされるリスクがあるのです。
リース会社にとってのリスクプレミアム
もちろん、リース会社は中小企業に対して求償権(代わりに払った分を返せと言う権利)を行使するでしょう。しかし、賃上げが未達になるような状況の企業や、コンプライアンス違反をするような企業から、即座に資金を回収できる保証はありません。
そのため、リース会社は「補助金案件」に対して、通常のリース契約以上に厳しい与信基準を設ける傾向にあります。「採択されればラッキー」程度の甘い事業計画では、リース会社の社内稟議を通すことは難しいのが現実です。
事業者が背負う「後戻りできない」リスク
事業者側にも特有のリスクがあります。
リース会社の変更は原則NG
一度、特定のリース会社と共同申請を行うとして事業計画書を提出してしまうと、採択後にそのリース会社を変更することは原則としてできません。 「Aリースだと審査が通らなかったので、Bリースに変えます」ということは、制度上認められません。これは、リース会社も含めて一つの事業計画として審査されているためです。
単独申請への切り替えも困難
同様に、「リースが通らなかったので、銀行から融資を受けて自分で買います」という変更も、資金調達計画の根幹に関わる変更とみなされ、認められません。つまり、リース審査落ち=補助金採択取り消し、という一本道になってしまう危険性があります。
まとめ:まずは金融機関・認定支援機関へ相談を
リース共同申請は、キャッシュフローの観点からは非常に魅力的な制度ですが、その裏側には「事業者」と「リース会社」双方に強固な信頼関係と高い信用力が求められます。
- ・直近の決算が黒字であり、財務体質が健全であること
- ・既存の取引リース会社があり、良好な関係ができていること
- ・賃上げ目標などを確実に達成できる堅実な事業計画であること
これらの条件に自信がない場合は、安易にリース共同申請を選択せず、まずは地元の金融機関や、補助金に詳しい認定経営革新等支援機関に相談し、通常の「購入」スキームでの資金調達(借入など)を検討することをお勧めします。
「採択されたのに導入できない」という最悪の事態を避けるためにも、資金調達手段の選定は慎重に行いましょう。