経済産業省の予算は増額傾向?申請者激減の背景にある「基金」の正体と補助金バブルの終焉
コロナ禍以降、経済産業省による中小企業支援策はかつてない規模で展開されてきました。特に「事業再構築補助金」は、一回の公募で3万社近い申請を集めるなど、まさに「補助金バブル」とも言える状況を作り出しました。
しかし、その後継として注目された「新事業進出補助金(中小企業・小規模事業者等新事業進出支援事業)」の第1回公募では、申請数が約3,000社にまで激減しています。予算規模は依然として巨大であるにもかかわらず、なぜ現場の熱量はこれほどまでに冷え込んでいるのでしょうか。
そこには、単なる「ブームの終わり」だけではない、国の予算管理の仕組みである「基金」というキーワードが深く関わっています。
事業再構築補助金から新事業進出補助金へ:数字で見る劇的な変化
まずは、直近数年間の申請数の推移を振り返ってみましょう。2021年に開始された事業再構築補助金は、コロナ禍における経済対策の目玉として、最大1億円(枠による)という破格の補助金額を提示しました。
- 事業再構築補助金(初期):1公募あたり約20,000〜30,000件の申請
- 新事業進出補助金(第1回):約3,000件の申請
この10分の1という数字の乖離は、単に「対象となる事業者がいなくなった」わけではありません。審査の厳格化、そして「採択のハードル」に対する事業者の認識の変化が大きく影響しています。
「基金化」による予算の長期確保と審査の厳格化
経済産業省の予算が表面上増え続けているように見える大きな理由は、単年度予算ではなく「基金」として数年分をまとめて確保する手法が増えたためです。
通常、国の予算は「単年度主義」であり、その年度内に使い切るのが原則です。しかし、事業再構築補助金などの大規模プロジェクトは「基金」として積み立てられており、複数年にわたって執行されます。
- 予算の積み増し:補正予算で数千億円〜兆単位の資金が基金に投入される。
- 執行の長期化:一度積み立てた予算は、数年かけて公募に使用される。
- 審査の質の変化:初期は「ばらまき」に近いスピード感が重視されたが、現在は不適切受給の防止や「真に成長性の高い事業」への選別が極めて厳しくなっている。
つまり、予算(在庫)はたっぷりあるものの、国が出口(採択)の蛇口を意図的に絞っている、あるいは審査基準を大幅に引き上げたことが申請数減少の要因の一つと考えられます。
なぜ「申請者数」がここまで減ったのか?3つの構造的要因
単に予算の仕組みだけでなく、申請する側の心理と環境も大きく変化しました。
1.「事業再構築」という言葉の定義の厳格化
初期の事業再構築補助金は、比較的広範な事業が対象となっていました。しかし、現在は「コロナ対策」から「構造転換・成長分野への進出」へと完全にシフトしています。
特に新事業進出補助金では、過去の補助金活用状況や、賃上げ要件、付加価値額の向上など、より高いコミットメントが求められるようになりました。「とりあえず申請してみよう」という層が、要件の厳しさを前に断念している状況が推察されます。
2. 過剰な事務負担と不採択リスクの認識
補助金の申請には膨大な書類作成が必要です。事業再構築補助金の後半では、採択率が低下し、さらに採択後の事務手続き(実績報告など)の煩雑さがSNSや経営者仲間を通じて周知されました。
「苦労して申請しても通らない、通っても入金までのハードルが高すぎる」という認識が広まった結果、安易な申請が抑制されたと言えるでしょう。
3. 審査体制の「適正化」による駆け込み需要の消失
一時期、認定支援機関による「代行申請」の過熱が問題視されました。これに対し、当局は審査体制を強化し、AIによる類似書類のチェックや、事業実態の精査を徹底しています。
これにより、コンサルティング会社主導の「中身の薄い申請」が通りにくくなったことが、数字上の激減に拍車をかけています。
予算は「ある」が「簡単には出さない」時代へ
ここで重要なのは、国の予算規模自体は縮小していないという点です。むしろ、グリーントランスフォーメーション(GX)やデジタルトランスフォーメーション(DX)、そして省力化投資といった特定分野には、依然として潤沢な予算が割り当てられています。
しかし、これからの補助金は「誰でももらえる」ステージから、「国が示す方針に沿って、確実に成長する企業に投資する」ステージへと完全に移行しました。
今後の補助金活用で求められる視点
申請者が減っている今こそ、真剣に事業変革を考えている企業にとってはチャンスとも言えます。ただし、以下の視点が不可欠です。
- 基金の目的を理解する:その補助金が、国のどのような政策意図(例:人手不足解消、輸出拡大)に基づいているかを読み解く。
- 実現可能性(フィジビリティ)の担保:単なる計画倒れに終わらない、客観的なデータに基づいた事業計画。
- 採択可能性への冷静な判断:自社の事業が要件に合致しているか、専門家と共に精査する。
なお、補助金には常に審査があり、要件を満たしていても必ず採択されるとは限りません。最終的な採択の可否は、外部審査委員による評価に依存することを留意しておく必要があります。
まとめ:戦略的な情報収集が成否を分ける
「予算が増えているのに申請者が減っている」という現状は、国が支援の対象を「数」から「質」へと切り替えた結果です。基金という形でプールされた予算は、今後も特定のテーマに沿って小出しに、しかし確実に執行されていくでしょう。
これからの経営者に求められるのは、流行に流されて申請することではありません。自社の成長戦略を描き、そのピースとして最適な制度を「基金の動き」から逆算して選別する、戦略的な情報収集能力なのです。